石油化学原料化プロセス開発

石油化学原料化プロセス開発

事業概要

現在行われている廃プラスチック(以下、廃プラ)のケミカルリサイクル(以下、CR)では、コークス炉原料利用が実用化され、化学品として利用する試みも行われており、廃プラを熱分解あるいは触媒分解して燃料や化学原料へ転換する研究開発例が数多く報告されています。しかし、熱分解では生成物中に高沸点の成分が残り、廃プラと触媒との直接混合による触媒分解では固体炭素の析出によって活性が急激に低下する等の問題があります。さらに、このような技術開発で対象としている装置は小型バッチ式(回分式)処理が多く、本研究全体が目指すような廃プラ廃棄ゼロを目指した大型連続処理設備の開発検討は行われてきていません。加えて、小型装置で液体生成物の他に副生するガスや残渣を有効利用することは難しく、この点は設備の減価償却費の観点から経済性を著しく悪化させてしまいます。
そこで、本研究では、既存の石油精製プロセスのうち、重質油を分解しオレフィン、芳香族などを生成するFCC(Fluid Catalytic Cracking、流動接触分解装置)あるいはRFCC(Residue Fluid Catalytic Crachking、残渣油流動接触分解装置)を最大限活用しつつ、大規模に廃プラから基礎化学品を連続的に生成する触媒分解プロセス(以下、廃プラ触媒分解プロセス)の開発を行っています。石油精製プロセスの有効活用を通じて価値の高い基礎化学品(プロピレンなどの軽質オレフィン、ナフサ、芳香族留分)の製造を収率高く実現することを目標とし、新規開発触媒による廃プラからの化学品原料生成活性の検討を経て、適切な廃プラ分解触媒の開発および反応条件を探索し、基礎化学品製造プロセスを構築することを目指します(図1)。

図1 廃プラスチック触媒分解プロセス開発体系図

プラスチック製品は、単一素材だけで生産されることはほとんど無く、多数の素材が複合して使用され、その中には石油精製プロセスにとって忌避物質となる物質も混入し、しかも廃プラには汚れが付着しています。本研究開発においては、石油に含まれる分子(最大分子量は1,500程度)よりもはるかに大きな分子量をもつ高分子(分子量が1万から数百万の化合物)を、プロセス一段で高収率な基礎化学品生産を目指すものではなく、触媒によって適度な分解によりそのまま石油化学原料となる生成物と、石油精製プロセスでの処理を経て石油化学原料となる低分解生成物に分離処理することで、トータルでCRの最大化、すなわち新CR技術の開発を目指すものです。

この目的を達成するために、本研究は4つの項目で構成します。
③ー1 触媒分解プロセス開発:新規プロセスの開発とパイロットプラントの基本設計
③ー2 プラスチック分解触媒開発:多種多様な廃プラに対応する複数触媒の開発
③ー3 生成物の回収技術開発:石油精製プラントを活用する最大回収技術の開発
③ー4 新CR適合プラスチックの開発:新CRを促進する容器包装類の素材からの開発
図2に技術開発項目間の連携イメージを示します。

図2 石油化学原料化(新CR)プロセス開発項目と連携概念図

 本研究開発では、廃プラの連続触媒分解プロセスを新規開発し、パイロットプラントのプロセスの基本設計までを行います。本技術開発では、そのまま石油化学原料となる高分解生成物をルート1、石油精製プロセスで二次的に分解される低分解生成物をルート2とし、ルート1と2への分離までを開発内容に含める。全体フロースキームを図3に示します。

図3 新規開発の廃プラ触媒分解プロセスを含む全体フロースキーム

 本研究開発では、新規廃プラ触媒分解プロセス開発と連携し、このプロセスで分解が進み新CRの最大化を押し進める新規の容器包装プラスチックの開発も目的とします。
プラスチック製容器包装は、大きく硬質性のものと軟質性のものに分かれます。内容物の輸送や販売、保管、使用に適した性能を持たせるため、素材はポリエチレンやポリプロピレンのほか、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなど複数のプラスチック素材を組み合わせて製造されています。さらに絵柄の印刷に顔料などを添加したインキを使用し、貼り合わせに接着剤を使用する。また、酸素バリア性や水蒸気バリア性を付与して内容物の長期保存を実現するため、エチレンービニルアルコール共重合体を組み合わせたり、アルミニウム箔を貼り合わせたり、ポリ塩化ビニリデンがコーティングされたフィルム、アルミニウムやシリカ、アルミナを蒸着したフィルムを使用することもあります(図4)。これらの炭化水素以外の物質が、分離できない形で新CRシステムに投入されると、廃プラ触媒分解プロセスの反応を妨げたり機器を腐食することが懸念され、また、低分解生成物に濃縮されて混入する特定成分が石油精製プロセスの受け入れ基準を超えるなど、様々な形で忌避物質となります。廃プラ触媒分解プロセスにおける忌避物質の挙動を把握し、この研究結果と連携しつつ、新CRに最適化されたプラスチック製品、特にプラスチック製容器包装の開発も行います。

図4 プラスチック製容器包装の素材例